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市民ミュージカル20周年記念公演代役出演記(2008年mixiに掲載)

更新日:8月10日

※2008年に体験した出来事が壮絶だったので記録も兼ねて掲載しておきます。


◎8月13日(水)


昼前頃、市民ミュージカル衣裳部のMちゃんから突然電話が入る。

「ちょっとお願いしたいことがあるので稽古場に来てほしい。」

その言葉とニュアンスで、直感した事がズバリ的中。

「重要な役をやっているI氏が緊急入院したため代役をやってほしい。」

「受けてもらえなかったら3日後の公演を中止するしかない。」とのこと。


聞いた瞬間にパァッと頭に血が上った状態になる。

これを断るという選択肢は自分にはない。

とりあえず台本と通し稽古のビデオを受け取り一旦帰宅。


帰宅後、外部とのコミュニケーションを一切シャットアウト。

幸いお盆なので、クライアントもほとんど休みだった。

家族とも必要以上の会話は避け、台本に向かいビデオを観る。


夕方早速、稽古場にて半立ち稽古(台本を手にしての稽古)。

会を退いて7年経つので、知らないメンバーが約半数。

とりあえず全体の流れと自分の動きを把握しようとしたが、

台本を見ながら台詞をしゃべるのが精一杯。

打ちひしがれた思いで帰宅。

食欲がない、眠れない状態となる。



◎8月14日(木)


朝、ちょっとだけ気分転換にと軽く新聞を見る。

これが大失敗。急激に心と体が日常に戻りたがり、台本への拒絶反応となる。

その拒絶反応と戦いながら、必死に台詞を覚えようとする。

昔聞いた、役者は孤独との戦いであるという言葉を思い出す。


夕方、稽古場にて台本を置いての立ち稽古。

ほとんどの役者が集まり、そこで初めて事情を聞いた者もいる。


稽古では何度も何度も台詞に詰まる。

特にクライマックスの、自分の台詞が中心となって場面を動かすところ。

だが昔一緒に舞台に立っていた古いメンバーからは、

「安心してますよ。」と言われる。

その表情からは「あなたなら大丈夫。」というオーラが滲み出ていた。

自分自身も「自分の経験値をもってすれば絶対にやれる。」と思いこむ。



◎8月15日(金)リハーサルの日


変更箇所があるとのことで予定より早く会場である市民会館大ホールへ、

みんなからは隔離してもらうようお願いし、台本に集中する。


やがて場当たり(立ち位置や照明の位置決めなど)が始まり、

自分の出番が来て、初めて照明を浴びて舞台に立った瞬間、

すべてが真っ白になり最悪の状態になる。

歌詞を忘れる。台詞に詰まる。声は張り上げるだけ。

役者と言える要素は何一つない。

「この状態では舞台をぶちこわしてしまう。」

本気でそう思った瞬間、突然心臓が苦しくなった。


そのあとは(場当たりなので)細かい芝居のシーンはやらず、

しばらく間をおいていきなりゲネプロ(通しリハーサル)をすることになった。


それを待つ間、胸をさすりながら考えた。もはや台本は見ない。

そこでふと気がついた。


「そうだ、観客は台本を持って観てる訳じゃない。」

「少々言葉の表現が違おうが関係ない。」

「それよりも、役者としてそこにいればいい。」

「浅利慶太も昔テレビでそんなこと言ってた。」

「幸い、芝居の流れはつかんでる。自分の言葉でしゃべればいいんだ。」


そう思った瞬間、自分の中で何かがはじけた。


とにかく夢中だった。

少々台詞をかんだり、最後の歌で歌詞がでたらめになったりはしたが、

自分の言葉で台詞をしゃべり、ゲネプロは無事に終了した。


その後いろんなスタッフに声を掛けられた。

「さすがですねぇ。」「よく短期間であれだけ・・・」

「エンジンがかかってきたじゃん。」


そして家に帰って、心配でリハーサルを見に来たかみさんからひと言、

「役のキャラが定まってないよ。」と言われて悩む。



◎8月16日(土)本番初日(2回公演)


朝、充分な睡眠が取れないまま会場入り。

初回本番は午後からなので午前中は場当たり手直し。


その間、昨晩のかみさんのダメ出しが頭を離れず。

確かに、ただそこにいて台詞をしゃべるだけでは表現ではない。

台詞の一つ一つに意味がある。役の中に心の動きがある。


悩みつつ昼のお弁当を食べる。

久しぶりに美味しいと思ってぱくぱく食べられた。


【1回目本番(13時開演)】


開演後、出待ちで控えている間に舞台上の他のメンバーの台詞や歌を聴く。

そこで初めてストーリーの流れ(本では伝わらないニュアンス)を把握する。

「なるほどそういうことか。」

そして出番、台詞を数回かんでしまったが、

自分なりに役のイメージをつかんで無事に初回公演終了。


休憩中、公演を観たかみさんから電話がかかる。

「今のキャラなら成立すると思うよ。」


【2回目本番(18時開演)】


すっかり気分が楽になる。

市民ミュージカル現役だった頃の感覚が蘇り、

調子に乗ってアドリブ(台本にない台詞)を入れる。

公演終了後、今回の公演の仕切りをやっていたM美から怒られ、

平謝りに謝る。

代役のやることではなかった、不謹慎であったと深く反省。


帰宅後もしょんぼりする。



◎8月17日(日)本番楽日(2回公演)


久しぶりによく眠れた。昨日怒られたことで気合いが入っている自分に気がつく。

ちょうど油断した頃に「気合いを入れ直せ。」と言われたみたいで良かったと思う。


その気合いを持ったまま会場入り。古い役者の一人から慰められる。

「今日はいたずらしないんですか?」「久しぶりで楽しかったんですよ。」


どうやら最近はアドリブ入れる役者はいないようだ。


【3回目本番(10時30分開演)】


気合いが入りすぎて途中からお腹が空いてしまい、

テンションを維持するのに苦労する。

おまけに最後の一番良いシーンで台詞をかんでしまう。


【4回目(最終)本番(14時開演)】


最後というプレッシャーからか結果的に一番緊張した公演だった。

台詞の間が空きすぎたところが数カ所。まわりもハラハラしたに違いない。

しかしこれで何とか無事にすべての公演をクリアする。


すべてが終わったら開放された気持ちになるかと思ったが正直不完全燃焼だった。

たった5日間では当然と言えば当然だが・・・・・・。


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翌日は死んだように1日中眠っていた。

後から思えば、本当に役に立ったのだろうかという反省の気持ちしかないが、

現役の素晴らしい役者達と一緒に舞台に立てたことは純粋に嬉しかった。


ちなみにI氏は数日後退院し、直接お礼の電話ももらった。


もう一度同じ事をやれと言われたら、かなりためらうだろうがやると思う。

今度はもっと上手くやろうとするに違いない。

いずれにせよこの夏、一生に残る貴重な体験をさせてもらった。

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